この街をオモシロくする人
vol.1 森祐美子さんインタビュー
どうも、戸塚新聞編集部の木村です。
フリーペーパー戸塚新聞の5月号で始まった「この街をオモシロクする人」という読んで字の如しな新企画。
毎回、戸塚区で活動する人にスポットを当てて、活動のきっかけや思いなど、紙面では紹介しきれないお話をWEBで配信していきます。
で、
今回は第1回目ということで、今の私の関心ごとのひとつである、地域での「子育て」について。
少し自分の話になりますが、私、現在1歳8ヶ月になる子どもがいる父親でして、子どもはイヤイヤ期に片足を突っ込んでいる状態の男の子。
初めての子育てということもあり、1歳になるまで、特に最初の数ヶ月は、正直泣き声ひとつとっても何をすればいいかわからず。
妻も昼夜逆転の生活と、子どもと2人きりの時間の過ごし方で悩んでいて、なんとなく心に薄雲がかかり始めているようで、そのことも気がかりでした。
そんな頃、”こんな素晴らしいコトをしている人たちいるんだ!しかも戸塚区に!!”
と、感動したのが『NPO法人こまちぷらす』さんが取り組む「ウェルカムベビープロジェクト」でした。
生まれてくる赤ちゃんと家族を祝福する気持ちをこめて、地域みんなから「ウェルカムベビーボックス」をお贈りする日本初の民間型プロジェクト<HPより引用>
以来、団体の活動を少しでもサポートできればと、フリーペーパーやWebの記事でもご紹介してきたのですが、
今回初めて、代表をつとめる森祐美子さんに活動を始めたきっかけから、そこに込めた思い、これまでの道のりなど幅広くお話を伺うことができました。
優しい口調で語られる森さんの言葉の中には、次の世代のために社会を少しでも良くしたいという想いを感じました。
子育てをしている人も、そうでない人も、ぜひ読んでいただければと思います。
『NPO法人こまちぷらす』のこと
2012年に子連れでいけるカフェスペースの運営、子育て情報の発信からはじめた『こまちぷらす』。現在では「ウェルカムベビープロジェクト」「フューチャーセッション」などを通して、お母さんたちが社会とつながるための仕組みづくりや、多様な視点から考える未来への取り組みなど、少しずつ活動の幅を広げています。
こまちぷらすHP http://comachiplus.org/wp/
きっかけは、出産・育児で感じた
言葉では表せない『孤立感』
赤ちゃん連れで行ける『こまちカフェ』の運営や、『ウェルカムベビープロジェクト』など、子育て中のお母さんをサポートする様々な活動をされている『こまちぷらす』さん。活動のきっかけは、森さんご自身の初産とその後の育児体験にありました。
森さん:「はじめての出産を迎えて、育児をしていく中で、だんだん言葉では言い表せないような深い『孤立感』を感じるようになっていて。
学生時代からコミュニティやまちづくりに関わる活動をしてきた自分が、いざこの街の住民として子育てをする立場になってみると、なんのコミュニティにも属さず、誰ともつながっていないことに気づいたんです」
初めての子育てでいろんなことがわからない不安の中、多くの女性が手探りで“母親”として歩み始めます。
森さんもそんなお母さんの1人で、子育ての悩みを共有できる“場”を求めていたそうです。
森さん:「誰かと会って話したい、そんな思いで情報を探しましたが、当時はそんな情報をネットで調べても見つからないし、知りたい情報にたどり着けなくて。同じような悩みを持った人と出会う場がなかったことが、一番苦しかったですね」
『NPO法人こまちぷらす』代表の森祐美子さん
子育ての話を共有できる人とつながる場も、情報もなく、育児にとても苦しんでいた森さん。
そんな折、戸塚区の保健師さんが持ってきてくれた1枚のチラシが、森さんの窮地を救うことになります。
森さん:「街の子育て支援拠点をつくる会で、意見を出してくれる市民の方を募集していたんですが、直感的に”これだ!”と思ったんです。
早速応募して子連れで参加してみると、様々な世代の方がいて、子育てについて意見交換しながら色んな価値観に触れられ、それが凄く楽しかったんです。
子どものことも代わるがわる抱っこしてくださって、励ましの声をかけてくれたり。
何度か参加するうちに、だんだん『自分』を取り戻せていることに気づいて、肩の力もふっと抜けていったんです。
”ひとりでそんなに頑張らなくてもいいんだ”って」
たくさんの人に子どもの面倒を見てもらえたり励ましの声をかけてもらえたことで、肩の荷がおりたという森さん
社会参加して人に必要とされるのを実感できたことで、子育てが少し楽になったと森さんは話してくれました。
また、その時の経験から、子育て中の『孤立』には支援だけではなく、お母さんたちが参加できる『場』をいかにつくることができるかが大事なんだと気づいたと言います。
同じような思いを抱えたお母さんたちに、情報を発信し、場をつくっていく必要性を感じ、そんな想いが現在の活動の原点となりました。
森さん:「私が感じた言葉では言い表せないような『孤立感』。そうした感情が『産後うつ』という形で表出する人もいれば、『虐待』という形になって表出する人もいます。
そのような社会課題として、目に見える形になる場合もあれば、そうでない場合もあります。
全く目に見えないまま、今も子育てで苦しんでいるお母さんたちは山ほどいます。
これから先、未来の担い手となる子どもたちが大きくなる頃に、そんな状況を引き継ぎたくない。
それは、社会が変わっていって欲しいという想いで、誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分が欲しいと思ったもの、必要だと思ったものを一つひとつ仲間とつくっていこうと思い、この活動を始めました。」
『NPO法人こまちぷらす』
2つの事業を柱にスタート
2012年に仲間と一緒に『NPO法人こまちぷらす』を立ち上げた森さん。最初の事業は「子育て情報の発信」と「子ども連れで行けるスペースの運営」という2本柱。
森さん自身が育児中に苦しんだコトが、そのまま最初の事業となり、活動をスタートさせました。
カフェと事務所があるのは、戸塚駅から徒歩7分ほどの場所にある建物の2階。
事業の柱のひとつであるカフェスペースの運営は、保土ヶ谷区、東戸塚、戸塚駅東口での期間限定営業を経て、2014年に現在の場所である戸塚の商店街の一角に移転OPEN。
連日子ども連れのお母さんたちで賑わう『こまちカフェ』は、森さんの想いが詰まった場所でもあります。
森さん:「大学時代に「artagglo」という学生団体を立ち上げて、新潟の小出郷(現魚沼市)で、1日限定のカフェを開いたことがあるんです。
地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒にカフェの内装を作ったり、料理を作ったり、1泊2日で野宿しながらキャンプファイヤーをしたり。
ゲストとホストの境が無くなっていく感じや、みんなが作り手になれて、何かしらで関われる空間がすごく居心地がよかったんですよね」
仲間と地元の方と一緒にカフェという『場』をつくり上げていく中で生まれる一体感に魅了された森さん。
その体験のきっかけをつくってくれた方々との出会いは、今運営しているカフェの原点のひとつにもなっているそう。
森さん:「その活動のきっかけをくださった公共文化施設があるんですが、小出郷では、その施設の方々が中核となり、行政だけでなく、商店会も病院も住民もみんなで街のことを考えていて。
これからのまちづくりは、色んな人が関わって一緒に考えて取り組む時代なんだっていうことを教えてくれました」
赤ちゃん連れでも行ける親子の居場所『こまちカフェ』。木のぬくもりを感じる温かみのある店内。
こまちカフェの運営は、行政委託ではなく、民間運営という茨の道を選択しています。
これから先、税収も少なくなり、維持できる場所が減っていく中で、民間でも継続できるモデルがないと、最終的に困ってしまうのは、お母さんたち。
だからこそ、そういうモデルをつくろうと考え、今のカフェのあり方は、その時の経験に非常に影響を受けたと言います。
子ども達が遊べるスペースやおもちゃも用意されている
お母さんたちが社会とつながる
ための場をつくること
小さなお子さんがいても周りに気兼ねなく食事を楽しめると人気の『こまちカフェ』ですが、居心地の良い空間の裏には、森さんやスタッフの方々の様々な工夫や、仕組みづくりがあると言います。
森さん:「私が育児中に体験した、子どもを一瞬でも見てもらえることのありがたさ。それをカフェにも活かしたくて、平日は見守りスタッフさんに居てもらったりして、少しでもお母さんやお父さんたちが気楽に過ごせたらと思っています。
また、カフェでは、毎月多種多様なイベントを開催しているんですが、それは色んな人たちが色んなテーマで繋がれるような入口を広くつくるという意味でもあって、そのきっかけをこのカフェでも提供しています」
平日のランチタイムには見守りスタッフさんもいて、お母さんやお父さんも落ち着いて食事の時間を楽しめる。
旬の食材にこだわったメニューは小麦粉・卵・乳製品を使わず、アレルギーが気なる方も安心して食べられるように工夫されている。写真は季節の畑プレート。
こまちカフェで毎日食事を提供するのもまた、お母さんたち。
パートナーと呼ばれるスタッフの方々が、仕事や家族・子どもと過ごす時間を大事にしながらも、自らの得意なことを発揮し、社会とつながるための”場”でもあります。そういったお母さんたちの力で、活気のある場も街も出来ている様子がみえてきました。
カフェの一角では、小物作家さんが出店できる手づくり雑貨マルシェ「haco+」という、手作り小物レンタルスペースも運営。
そのほかにも「親子一組」での来店は勇気がいるという声から始まった、「恩送りカード」というものも。
「本が好きな方へ」や、「ドリームハイツから来てくれた赤ちゃんとお母さんへ」など、相手を指定しながら1杯のドリンクを人から人へ、メッセージを添えてプレゼントをする取り組み。
恩送りカードは、こまちカフェ店内に掲示され、後日ご来店のお客さんで、”これは自分のことだ”と思った方は、そのカードを使ってドリンクを1杯無料で飲むことができる。
見知らぬ「街の誰か」が、自分たちを応援してくれている。そんな風に感じられるだけで、きっと心強いはず。
こちらが恩送りカード(現在は親子一組でなくても利用可)
さまざまな活動を続けている森さん、一見、順風満帆のようにも見えますが、「カフェの運営は本当に大変です」と、笑いながら話してくれました。
毎日カフェを開き、お母さんたちが参加できるために、ここまでたくさんの仕組みづくりを一つひとつスタッフの皆さんで知恵を出しながらつくっていき、それを維持していくのは、確かに並大抵のことではありません。
これまでの歩みの中には、何年にも及ぶ仲間との地道な活動の日々があり、苦悩や葛藤もあったのだと思います。
それでも模索を続けてきているからこそ、今、少しずつお母さんたちの未来がこの場所から変わっていくのだと感じられました。
その(2)では、地域での子育て、ウェルカムベビープロジェクトについて伺ったお話をご紹介します。
◎写真 坂本貴光
◎取材・文 木村伊織
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NPO法人こまちぷらす
(こまちカフェ)
住所:横浜市戸塚区戸塚町145-6 奈良ビル2F
営業時間:ランチタイム ①11:00〜13:30 ②12:30〜14:00(2部制、各8組まで)
ティータイム 14:00〜17:00
定休日:日曜日
電話:070-5562-9555